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Sight & Sound『史上最高の映画』2022年版:1位は『ジャンヌ・ディエルマン』、トップ30と歴代1位の変遷

英国映画協会Sight & Sound誌が10年ごとに行う批評家投票。2022年版で1位が『ジャンヌ・ディエルマン』に交代した経緯、トップ30、批評家投票vs監督投票、小津『東京物語』など日本映画の評価まで解説します。

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結論:これは「世界の批評家が選んだ、次に観る映画リスト」

英国映画協会(BFI)が発行する映画誌 Sight & Sound が、10年に1度だけ行う「史上最高の映画(The Greatest Films of All Time)」投票。その最新版が2022年版(2022年12月1日発表、第8回)です。世界中の1639人の批評家・研究者・キュレーター・アーカイビストらが投票しました。

2022年版で最大の話題は、1位の交代でした。長らく王座にあった『市民ケーン』(1962〜2002年)、そして2012年に首位を奪った『めまい』を抜いて、シャンタル・アケルマン監督の**『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』**(1975年)が1位に。女性監督の作品が首位に立つのは投票70年の歴史で初で、賛否を巻き起こしました。

まず押さえたいのは、これは「いちばん売れた」でも「いちばん泣ける」でもなく、世界の専門家が選んだリストだということ。だから一般のヒット作ではなく、3時間20分かけて主婦の日常を淡々と映す前衛作が1位になります。このランキングの正しい使い方は、順位を信じることではなく、「次に観る映画リスト」のたたき台にし、「何が選ばれ、順位がどう動いたか」から映画史の現在地を読むことです。本のランキングに興味がある方は、ガーディアン『史上最高の小説100選』の解説も同じ視点で読めます。

どんなランキングか/集計方法

Sight & Sound誌は1952年に「批評家に史上最高の映画を尋ねる」という企画を始め、以後10年ごとに続けてきました。2022年版は8回目にあたります。

集計方法はシンプルです。

  • 各投票者が「史上最高の映画」を1人最大10本挙げる
  • それを集計し、得票数の多い順に並べる
  • 同票の作品は**同率順位(タイ)**になる

2022年版の批評家投票は1639人が参加し、2012年版(846人)の約2倍に拡大しました。投票者の顔ぶれも、地域・性別・専門の面で意図的に多様化されています。これとは別に、映画監督に尋ねる「監督投票」も同時に実施され、2022年版は480人の監督が投票しています。

注意したいのは、これは厳密な学術調査ではないこと。「最高(greatest)」が影響力なのか完成度なのか再見に耐えるかは投票者しだいで、明確な定義はありません。主観の集合である点は、この種のランキング共通の限界として理解しておきましょう。

トップ30(2022年・批評家投票)

順位作品(邦題・原題)監督国・年ひとこと
1ジャンヌ・ディエルマンシャンタル・アケルマンベルギー 1975主婦の日常を3時間20分かけて描く前衛作。初の女性監督1位
2めまいアルフレッド・ヒッチコック米 1958高所恐怖症の元刑事の偏執的な恋。2012年の1位
3市民ケーンオーソン・ウェルズ米 1941新聞王の生涯を多視点で。1962〜2002年の不動の1位
4東京物語小津安二郎日 1953上京した老夫婦と子世代のすれ違い。小津の代表作
5花様年華ウォン・カーウァイ香港 2000隣人同士の抑制された恋。映像と音楽の官能
62001年宇宙の旅スタンリー・キューブリック米英 1968人類の進化と知性をめぐるSFの金字塔
7ビューティフル・ワーククレール・ドゥニ仏 1998外人部隊を舞台にした身体と嫉妬の物語
8マルホランド・ドライブデヴィッド・リンチ米 2001ハリウッドの悪夢のような迷宮
9カメラを持った男ジガ・ヴェルトフソ連 1929編集技法を駆使した実験的ドキュメンタリー
10雨に唄えばS・ドーネン/G・ケリー米 1952トーキー移行期を描く陽気なミュージカル
11サンライズF・W・ムルナウ米 1927サイレント期の詩情あふれる愛の物語
12ゴッドファーザーF・コッポラ米 1972マフィア一家の権力と家族の叙事詩
13ゲームの規則ジャン・ルノワール仏 1939上流社会の偽善を喜劇として暴く群像劇
145時から7時までのクレオアニエス・ヴァルダ仏 1962検査結果を待つ2時間を実時間で追う
15捜索者ジョン・フォード米 1956西部劇の代表作。執念の捜索行
16午後の網目マヤ・デレン米 1943前衛短編。夢と反復のイメージ
17クローズ・アップアッバス・キアロスタミイラン 1989実話を本人たちが再演する虚実の傑作
18ペルソナイングマール・ベルイマン瑞 1966看護師と女優、二つの顔が溶け合う
19地獄の黙示録F・コッポラ米 1979ベトナム戦争を遡る狂気の旅
20七人の侍黒澤明日 1954野武士から村を守る侍たち。娯楽大作の原点
21裁かるるジャンヌC・T・ドライヤー仏 1928クローズアップで迫るジャンヌの受難
22晩春小津安二郎日 1949嫁ぐ娘と残る父。小津の静謐な親子劇
23プレイタイムジャック・タチ仏 1967近代都市を舞台にした視覚的喜劇
24ドゥ・ザ・ライト・シングスパイク・リー米 1989猛暑のNYで噴き出す人種の緊張
25バルタザールどこへ行くロベール・ブレッソン仏 1966ロバの一生に映る人間の罪
26狩人の夜チャールズ・ロートン米 1955偽牧師に追われる子どもたちの寓話
27ショアクロード・ランズマン仏 19859時間半に及ぶホロコースト証言の記録
28ひなぎくヴェラ・ヒティロヴァチェコ 1966二人の少女の破壊的な遊戯。前衛喜劇
29タクシードライバーマーティン・スコセッシ米 1976孤独な運転手の暴走を描く都市の悪夢
30燃ゆる女の肖像セリーヌ・シアマ仏 201918世紀の画家とモデルの恋。近年の急上昇株

※邦題は一般的な表記を優先。同票による同率順位は本表では便宜上連番で示しています。全100本(および拡大版リスト)はBFI公式の全リストを参照してください。

全体の傾向

1. 1位の「世代交代」がはっきり起きた

長年の定番だった『市民ケーン』『めまい』が2位・3位に後退し、2012年に36位だった『ジャンヌ・ディエルマン』が一気に1位へ。投票者数が約2倍に増え、層が多様化したことが効きました。「正典(カノン)」が固定ではなく、世代ごとに書き換えられることを象徴する結果です。

2. 女性監督・近年の作品が躍進

トップ30にアケルマン、ドゥニ、ヴァルダ、デレン、ヒティロヴァ、シアマと女性監督作が複数入り、過去の男性中心リストから様変わりしました。『燃ゆる女の肖像』(30位)、『ドゥ・ザ・ライト・シング』(24位)など、比較的新しい作品や多様な作り手への評価が上位に食い込んでいます。

3. それでも欧米・20世紀が中心

一方で全体の重心は依然として欧米と20世紀にあります。アジアからは日本・香港・イラン勢が目立つものの、上位の多くはアメリカ・西欧の作品。「史上最高」を名乗るわりに射程は西洋・近現代寄り、という批判はこの構造から生まれます。

4. 「観やすさ」より「映画史的な重み」

3時間20分の『ジャンヌ・ディエルマン』、9時間半の『ショア』、サイレントや実験映画が上位に並ぶように、評価軸は娯楽性より映画表現の革新・歴史的な重みに寄っています。一般の人気投票とは別物だと理解しておくのが大切です。

主要作品の楽しみ方(上位の見どころ)

全100本の列挙は前述のとおりBFI公式に譲り、ここでは初めて触れる人向けに入口になりやすい上位作を補足します。

  • 『ジャンヌ・ディエルマン』(1位) — まずは「なぜこれが1位か」を体験するつもりで。退屈さの中に張りつめる緊張と、終盤の崩壊が主題です。
  • 『めまい』(2位)/『市民ケーン』(3位) — 「映画の教科書」として外せない二本。長年の1位だった理由を確かめる意味でも最初の一歩に向きます。
  • 『東京物語』(4位)/『晩春』(21位タイ) — 小津の静かな親子劇。日本の観客には最も入りやすい上位作です。
  • 『2001年宇宙の旅』(6位)/『ゴッドファーザー』(12位) — 一般的な知名度も高く、ランキングと自分の感覚をすり合わせやすい二本。
  • 『花様年華』(5位)/『燃ゆる女の肖像』(30位) — 映像美で惹き込まれる、比較的新しい作品。ランキング入門にも好適です。

議論・批判

2022年版は、発表直後から映画ファンの間で大きな論争を呼びました。主な論点は次の通りです。

  • 1位の急上昇への賛否 — 2012年に36位だった作品が一気に1位になったことに、「再評価の象徴だ」という評価と「政治的な配慮では」という批判が交錯しました。実際にはアケルマン作品は以前から評価が高く、投票層の拡大が押し上げた面が大きいと整理できます。
  • 人選・方式の変更 — 投票者を約2倍に増やし、多様性を意識して人選した結果、過去の「古典寄り」のリストと大きく性格が変わりました。これを「健全な更新」と見るか「基準の不連続」と見るかで評価が割れます。
  • 誰が落ちたか — 古典の常連が順位を下げる一方、Get Out(95位タイ)、Parasite(『パラサイト 半地下の家族』90位タイ)、Moonlight(『ムーンライト』60位タイ)など近年・多様な作り手の作品が新たに上位100入りしました。世代交代の象徴です。
  • 批評家投票 vs 監督投票 — 同時に行われた監督投票(480人)では『2001年宇宙の旅』が1位で、結果が大きく異なります。「作り手が選ぶ最高」と「批評家が選ぶ最高」は別物だと示す好例です。

日本の読者向け:日本映画の評価と観る方法

日本映画は2022年批評家投票で複数が上位100本に入っており、世界的な評価の高さがうかがえます。

順位作品監督
4東京物語小津安二郎
20七人の侍黒澤明
21(タイ)晩春小津安二郎
41(タイ)羅生門黒澤明
72(タイ)となりのトトロ宮崎駿
75(タイ)山椒大夫溝口健二
75(タイ)千と千尋の神隠し宮崎駿
90(タイ)雨月物語溝口健二

特筆すべきは小津安二郎『東京物語』が批評家投票で4位に入っていること。さらに**監督投票では『東京物語』が上位(2012年の監督投票では1位、2022年も同率トップ級)**に位置し、「映画監督が最も尊敬する一本」として世界的な定番になっています。黒澤・溝口に加え、宮崎駿のアニメ2本が入っている点も、日本の作り手の層の厚さを示しています。

観る方法としては、小津・黒澤・溝口の作品は国内の配信サービスや名画座、Blu-rayで比較的入手しやすく、宮崎作品も広く流通しています。海外の上位作はアート系配信やBlu-rayが中心で、上位100本すべてが常時配信されているわけではない点には留意してください。

まとめ:視聴リストとしての使い方

Sight & Soundのランキングは、「これが正解」という結論ではなく、映画史の現在地を映す対話のきっかけです。順位の上下に一喜一憂するより、次の3つの使い方をおすすめします。

  1. まず1本 — 知っている上位作(『東京物語』『2001年宇宙の旅』など)から入り、自分の感覚とランキングをすり合わせる。
  2. 未知の作品を1本 — リストの中で名前も知らなかった作品を1本選んで観る。これがいちばん視野が広がります。
  3. 10年後と比べる — 次回は2032年版の予定。今のうちに上位を押さえておくと、「次に何が落ち、何が上がるか」を自分の目で確かめられます。

積読ならぬ「積観(つみみ)」のリストとして、気になった一本から始めてみてください。


出典:本記事は、英国映画協会(BFI) Sight & Sound誌「The Greatest Films of All Time」**2022年版(2022年12月1日発表)**の批評家投票(1639人)・監督投票(480人)の結果に基づきます。順位・票数・年はBFI公式発表BFI公式の全リスト、およびWikipedia「The Sight and Sound Greatest Films of All Time 2022」で確認しました。全100本および拡大版リストは公式ページを参照してください。

Primary sources

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Toshi Time編集部

新NISA・iDeCo・配当・年金・退職金を、制度と税引後キャッシュフローの観点から整理します。社会保険料や取り崩し順序を含むシミュレーションを発信。※金融商品取引業の登録はなく、個別銘柄の推奨や投資助言は行いません。

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