AFI『アメリカ映画ベスト100』完全ガイド:1位は『市民ケーン』、1998年版と2007年版の異同を全100作で読む
米AFI(アメリカ映画協会)が1,500名超の映画人投票で選んだ『アメリカ映画ベスト100』。集計方法、トップ20、1998年版と2007年版の入れ替わり、日本での観方まで、全100作の一覧つきで解説します。
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結論:これは「観るリストの王道」、上から消化すればいい
米AFI(American Film Institute/アメリカ映画協会)が、1,500名を超える映画人の投票で選んだ「アメリカ映画ベスト100(AFI’s 100 Years…100 Movies)」を解説します。1998年に初版が、2007年に10周年改訂版が発表されました。
1位は、初版・改訂版ともオーソン・ウェルズ『市民ケーン』(1941)。前回紹介したガーディアン『史上最高の小説100選』が「玄人好みの地味な1位」だったのに対し、こちらは映画史で「最も影響力のある作品」とされる『市民ケーン』が堂々の首位で、とっつきやすい王道リストになっています。
押さえておきたいのは、これは「いちばん売れた」でも「いちばん面白い」でもなく、アメリカ製の劇映画に限った、映画の作り手と専門家が選んだリストだということ。だから黒澤明もフェリーニも入りません。それでも、ハリウッド100年史の幹をたどるには最良の地図です。本記事では全100作(2007年版)の一覧と、98年版との差、日本での観方までまとめました。難しく考えず、上から順に消化していくのがいちばんの使い方です。
どんなランキングか/集計方法
AFIは、脚本家・監督・俳優・プロデューサー・撮影監督・編集者・経営者・映画史家・批評家など、1,500名を超える映画関係者に投票を依頼しました。投票者は、AFIが事前に用意した**400本の候補作(ノミネート作)**の中から、自分の選ぶ「偉大なアメリカ映画」をマークします。
選定にあたっては、AFIが次のような基準を示しています。
- 長編劇映画であること(おおむね60分以上のフィクション)
- アメリカ映画であること(英語が主体の米国製作)
- 批評的評価/主要な映画賞の受賞
- 時代を超えた人気
- 映画史的な重要性/文化的インパクト
つまり「面白さ」だけでなく「歴史に残したい度」が点数化される設計です。1998年版は1998年6月16日にCBSで放送・発表。2007年版(10周年改訂版)は2007年6月20日にCBSで、モーガン・フリーマンの司会による3時間特番として放送されました。2007年版の候補は「1912〜1996年の作品+1996〜2006年の新たに対象になった作品」から選ばれています。本記事では原則として最新の2007年版の順位を使います。
トップ20(2007年版)
| 順位 | 作品(邦題の通称) | 原題 / 年 | 監督 | 一言 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 市民ケーン | Citizen Kane (1941) | オーソン・ウェルズ | 映画文法を変えた「最も偉大な1本」。2度とも1位 |
| 2 | ゴッドファーザー | The Godfather (1972) | F・F・コッポラ | マフィア叙事詩。98年版3位から浮上 |
| 3 | カサブランカ | Casablanca (1942) | M・カーティス | 戦時下の恋。「君の瞳に乾杯」 |
| 4 | レイジング・ブル | Raging Bull (1980) | M・スコセッシ | ボクサーの破滅。白黒の傑作 |
| 5 | 雨に唄えば | Singin’ in the Rain (1952) | G・ケリー/S・ドーネン | ミュージカルの頂点 |
| 6 | 風と共に去りぬ | Gone with the Wind (1939) | V・フレミング | 南北戦争の大作。歴代屈指の興収 |
| 7 | アラビアのロレンス | Lawrence of Arabia (1962) | デヴィッド・リーン | 砂漠の超大作。70mmの極致 |
| 8 | シンドラーのリスト | Schindler’s List (1993) | S・スピルバーグ | ホロコーストを描く白黒の現代古典 |
| 9 | めまい | Vertigo (1958) | A・ヒッチコック | 61位から9位へ大躍進したサスペンス |
| 10 | オズの魔法使 | The Wizard of Oz (1939) | V・フレミング | 総天然色ファンタジーの古典 |
| 11 | 街の灯 | City Lights (1931) | C・チャップリン | サイレント喜劇の到達点 |
| 12 | 捜索者 | The Searchers (1956) | ジョン・フォード | 96位→12位、最大の出世作 |
| 13 | スター・ウォーズ | Star Wars (1977) | ジョージ・ルーカス | SF大衆映画の金字塔 |
| 14 | サイコ | Psycho (1960) | A・ヒッチコック | シャワーシーンで映画史に刻印 |
| 15 | 2001年宇宙の旅 | 2001: A Space Odyssey (1968) | S・キューブリック | SFの哲学的到達点 |
| 16 | サンセット大通り | Sunset Boulevard (1950) | ビリー・ワイルダー | ハリウッドの闇を描く名作 |
| 17 | 卒業 | The Graduate (1967) | マイク・ニコルズ | 青春映画の代名詞 |
| 18 | ジェネラル将軍 | The General (1926) | B・キートン他 | 07年版で新登場のサイレント喜劇 |
| 19 | 波止場 | On the Waterfront (1954) | エリア・カザン | ブランドの代表作 |
| 20 | 素晴らしき哉、人生! | It’s a Wonderful Life (1946) | フランク・キャプラ | クリスマス定番の人生賛歌 |
順位は2007年版。邦題は一般的な通称を採用しています。
全体の傾向
古典ハリウッドが分厚い
トップ20を見ても、1930〜60年代の作品が中心です。これは「映画史的重要性」「時代を超えた人気」が評価軸に入っているため。最新の話題作が上位を独占する一般人気投票とは性格が違います。
監督の集中:スピルバーグ5本、巨匠が複数本
2007年版で最多はスティーヴン・スピルバーグの5作(『シンドラーのリスト』『E.T.』『ジョーズ』『レイダース/失われたアーク』『プライベート・ライアン』)。続いてアルフレッド・ヒッチコック、スタンリー・キューブリック、ビリー・ワイルダーが各4作、フランク・キャプラ/チャップリン/コッポラ/ジョン・ヒューストン/スコセッシが各3作と、限られた巨匠に集中しています。
ジャンルの幅は広い
西部劇(『捜索者』『ハイ・ヌーン』)、ミュージカル(『雨に唄えば』『ウエスト・サイド物語』)、SF(『スター・ウォーズ』『2001年』)、ギャング(『ゴッドファーザー』『グッドフェローズ』)、喜劇(『お熱いのがお好き』『或る夜の出来事』)まで網羅。「アメリカ映画の主要ジャンルを一通り観たい」人の教科書になります。
「1位=市民ケーン」は動かない
専門家投票では『市民ケーン』が長年「最も偉大な映画」の象徴とされてきました。深焦点撮影、入れ子の語り、新聞王の生涯を多視点で再構成する構造など、後世への技術的・物語的影響が圧倒的だからです。ただし近年は、英国映画協会(BFI)の批評家投票で2012年に『めまい』が、2022年に『ジャンヌ・ディエルマン』が首位になるなど、「永遠の1位」を見直す動きも世界的に出ています。
全リスト(2007年版・全100作)
以下はAFI 2007年版(10周年改訂版)の全100位です。出典はWikipedia「AFI’s 100 Years…100 Movies (10th Anniversary Edition)」。21位以降を一覧にします(1〜20位は上記の表を参照)。
- 21位 チャイナタウン|Chinatown (1974)
- 22位 お熱いのがお好き|Some Like It Hot (1959)
- 23位 怒りの葡萄|The Grapes of Wrath (1940)
- 24位 E.T.|E.T. the Extra-Terrestrial (1982)
- 25位 アラバマ物語|To Kill a Mockingbird (1962)
- 26位 スミス都へ行く|Mr. Smith Goes to Washington (1939)
- 27位 真昼の決闘(ハイ・ヌーン)|High Noon (1952)
- 28位 イヴの総て|All About Eve (1950)
- 29位 深夜の告白|Double Indemnity (1944)
- 30位 地獄の黙示録|Apocalypse Now (1979)
- 31位 マルタの鷹|The Maltese Falcon (1941)
- 32位 ゴッドファーザー PART II|The Godfather Part II (1974)
- 33位 カッコーの巣の上で|One Flew Over the Cuckoo’s Nest (1975)
- 34位 白雪姫|Snow White and the Seven Dwarfs (1937)
- 35位 アニー・ホール|Annie Hall (1977)
- 36位 戦場にかける橋|The Bridge on the River Kwai (1957)
- 37位 我等の生涯の最良の年|The Best Years of Our Lives (1946)
- 38位 黄金|The Treasure of the Sierra Madre (1948)
- 39位 博士の異常な愛情|Dr. Strangelove (1964)
- 40位 サウンド・オブ・ミュージック|The Sound of Music (1965)
- 41位 キング・コング|King Kong (1933)
- 42位 俺たちに明日はない|Bonnie and Clyde (1967)
- 43位 真夜中のカーボーイ|Midnight Cowboy (1969)
- 44位 フィラデルフィア物語|The Philadelphia Story (1940)
- 45位 シェーン|Shane (1953)
- 46位 或る夜の出来事|It Happened One Night (1934)
- 47位 欲望という名の電車|A Streetcar Named Desire (1951)
- 48位 裏窓|Rear Window (1954)
- 49位 イントレランス|Intolerance (1916)
- 50位 ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間|The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring (2001)
- 51位 ウエスト・サイド物語|West Side Story (1961)
- 52位 タクシードライバー|Taxi Driver (1976)
- 53位 ディア・ハンター|The Deer Hunter (1978)
- 54位 M★A★S★H マッシュ|MAS*H (1970)
- 55位 北北西に進路を取れ|North by Northwest (1959)
- 56位 ジョーズ|Jaws (1975)
- 57位 ロッキー|Rocky (1976)
- 58位 黄金狂時代|The Gold Rush (1925)
- 59位 ナッシュビル|Nashville (1975)
- 60位 我輩はカモである(吾輩はカモである)|Duck Soup (1933)
- 61位 サリヴァンの旅|Sullivan’s Travels (1941)
- 62位 アメリカン・グラフィティ|American Graffiti (1973)
- 63位 キャバレー|Cabaret (1972)
- 64位 ネットワーク|Network (1976)
- 65位 アフリカの女王|The African Queen (1951)
- 66位 レイダース/失われたアーク|Raiders of the Lost Ark (1981)
- 67位 バージニア・ウルフなんかこわくない|Who’s Afraid of Virginia Woolf? (1966)
- 68位 許されざる者|Unforgiven (1992)
- 69位 トッツィー|Tootsie (1982)
- 70位 時計じかけのオレンジ|A Clockwork Orange (1971)
- 71位 プライベート・ライアン|Saving Private Ryan (1998)
- 72位 ショーシャンクの空に|The Shawshank Redemption (1994)
- 73位 明日に向って撃て!|Butch Cassidy and the Sundance Kid (1969)
- 74位 羊たちの沈黙|The Silence of the Lambs (1991)
- 75位 夜の大捜査線|In the Heat of the Night (1967)
- 76位 フォレスト・ガンプ|Forrest Gump (1994)
- 77位 大統領の陰謀|All the President’s Men (1976)
- 78位 モダン・タイムス|Modern Times (1936)
- 79位 ワイルドバンチ|The Wild Bunch (1969)
- 80位 アパートの鍵貸します|The Apartment (1960)
- 81位 スパルタカス|Spartacus (1960)
- 82位 サンライズ|Sunrise: A Song of Two Humans (1927)
- 83位 タイタニック|Titanic (1997)
- 84位 イージー・ライダー|Easy Rider (1969)
- 85位 オペラは踊る|A Night at the Opera (1935)
- 86位 プラトーン|Platoon (1986)
- 87位 十二人の怒れる男|12 Angry Men (1957)
- 88位 赤ちゃん教育|Bringing Up Baby (1938)
- 89位 シックス・センス|The Sixth Sense (1999)
- 90位 有頂天時代|Swing Time (1936)
- 91位 ソフィーの選択|Sophie’s Choice (1982)
- 92位 グッドフェローズ|Goodfellas (1990)
- 93位 フレンチ・コネクション|The French Connection (1971)
- 94位 パルプ・フィクション|Pulp Fiction (1994)
- 95位 ラスト・ショー|The Last Picture Show (1971)
- 96位 ドゥ・ザ・ライト・シング|Do the Right Thing (1989)
- 97位 ブレードランナー|Blade Runner (1982)
- 98位 ヤンキー・ドゥードル・ダンディ|Yankee Doodle Dandy (1942)
- 99位 トイ・ストーリー|Toy Story (1995)
- 100位 ベン・ハー|Ben-Hur (1959)
邦題は一般的な通称です。正確な原題・年・全順位はAFI/Wikipediaの一覧を参照してください。
議論・批判:1998年版から何が入れ替わったか
2007年版では、100本のうち23本が新しく追加され、23本が外れました。残った77本のうち約半数は順位を上げ、約半数は下げています。
新たに加わった主な作品
サイレント映画の評価上昇が目立ちます。ジェネラル将軍(18位)、イントレランス(49位)、サンライズ(82位)、有頂天時代(90位)などが新登場。さらに、1998年時点では新しすぎた、あるいは評価が定まっていなかった現代作――ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間(50位)、ショーシャンクの空に(72位)、トイ・ストーリー(99位)、ブレードランナー(97位)、シックス・センス(89位)、ドゥ・ザ・ライト・シング(96位)、プライベート・ライアン(71位)、タイタニック(83位)も加わりました。
落選した主な作品
代わりに外れたのは、ドクトル・ジバゴ、第三の男、地上より永遠に、アマデウス、西部戦線異状なし、ファンタジア、理由なき反抗、駅馬車、未知との遭遇、マイ・フェア・レディ、パットン大戦車軍団、招かれざる客など。とくに**『国民の創生』(1915)** の落選は象徴的で、技術史的には重要でも、人種差別的内容への現代的批判が反映された形といえます。
大きな順位変動
- 最大の躍進:『捜索者』が96位→12位(+84)。ジョン・フォードと西部劇の再評価を象徴。
- ヒッチコック**『めまい』も61位→9位**と大幅上昇。
- 逆に**『アフリカの女王』は17位→65位(−48)**と大きく後退しました。
こうした変動を「正解の入れ替え」と見るより、10年で映画界の価値観がどう動いたかの記録として読むのが面白いところです。
構造的な偏り
このリストは設計上、アメリカ映画限定で、外国映画(黒澤、フェリーニ、ベルイマン等)は最初から対象外です。また監督・主要キャストに白人男性が多く、女性監督や非白人監督の作品が極端に少ない点は、近年たびたび指摘される偏りです。あくまで「20世紀アメリカ・ハリウッドの正典」を映した鏡として捉えるのが妥当です。
日本の読者向け:観る方法と無料で観られるもの
ほぼ全作に定着した邦題があり、日本でも観やすいリストです。
- 配信・ソフト:『ゴッドファーザー』『スター・ウォーズ』『E.T.』『ショーシャンクの空に』『フォレスト・ガンプ』『パルプ・フィクション』『トイ・ストーリー』など大半は、主要な定額配信やブルーレイ/DVDで視聴できます。配信先は時期で変わるため、各サービスの検索で確認してください。
- 無料で観られる可能性があるもの:製作年が古い作品の一部はアメリカでパブリックドメイン化しており、Internet Archive などで無料公開されている場合があります。代表例は『市民ケーン』『キング・コング』(1933)、サイレントの『黄金狂時代』『ジェネラル将軍』など(公開状況・画質は要確認)。
- 入手しにくい作品:『サリヴァンの旅』『有頂天時代』『ラスト・ショー』など一部の古典・地味めの作品は、配信が限られソフトも入手しづらいことがあります。
なお、このリストはアメリカ映画専門のため、黒澤明『七人の侍』など日本映画は入りません。日本映画や世界映画まで広げたい場合は、AFIとは別の世界映画リスト(BFI「Sight and Sound」など)を併用すると視野が広がります。
まとめ:上から消化する「視聴リスト」として
AFI『アメリカ映画ベスト100』は、ハリウッド100年史の幹をたどる王道の視聴ガイドです。1位は2度とも『市民ケーン』で揺るがず、まさに「観るリストの定番」。順位を信じ込むのではなく、
- まずトップ20を消化して「古典の手触り」をつかむ、
- 次に好きなジャンル(西部劇・SF・ミュージカル等)を縦に攻める、
- 1998年版→2007年版の入れ替わりから「映画の評価は動く」ことを楽しむ、
という使い方がおすすめです。気に入った監督が見つかったら、スピルバーグやヒッチコックのように複数作入っている巨匠を深掘りすると、自然と映画史が立体的に見えてきます。小説で同じことをしたい人は、ガーディアン『史上最高の小説100選』もあわせてどうぞ。
出典:本記事は「AFI’s 100 Years…100 Movies」初版(1998年6月16日発表)および10周年改訂版(2007年6月20日発表)に基づきます。順位・追加除外・変動はWikipedia「AFI’s 100 Years…100 Movies (10th Anniversary Edition)」「AFI’s 100 Years…100 Movies」、概要はAFI公式サイトで確認しました(2026年6月27日時点)。全100位の正確な原題・年は出典の一覧を参照してください。
一次情報・参考リンク
- AFI's 100 Years...100 Movies (10th Anniversary Edition) - Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/AFI's_100_Years...100_Movies_(10th_Anniversary_Edition) 公開
- AFI's 100 Years...100 Movies - Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/AFI's_100_Years...100_Movies 公開
- AFI's 100 YEARS...100 MOVIES | American Film Institute https://www.afi.com/afis-100-years-100-movies/ 公開
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- · 参考リンク 3件
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