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トランプ第2期の対中関税はなぜ"撃ち合い"のまま終わらなかったのか

対中145%まで吊り上がった相互関税が、2026年5月の北京会談前に30%へ縮小し、首脳会談で延長が確認されました。撃ち合いが続かなかった理由を、米最高裁の違憲判決、双方の国内事情、棚上げされた論点から整理します。

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結論

2025年春に発動された対中145%関税は、2026年5月12日時点で30%まで縮小し、5月14日からの北京での米中首脳会談ではその一時休戦の延長と関係安定化が確認されました。

「撃ち合いの継続」ではなく「一時停戦の延長」に落ちた背景には、米中双方それぞれの国内事情があります。

ここを「関税が下がってよかった」で止めると、なぜ止まったのか、いつまで続くのかが見えなくなります。

論点は、この縮小が構造的な手打ちなのか、それとも次のラウンドへの条件付き停戦なのかです。

何が起きたか

2025年春、トランプ政権は「解放の日(Liberation Day)」と名づけた包括的な相互関税を発動し、対中145%という前例のない水準まで関税を引き上げました。

中国側もただちに対米125%で報復し、双方の追加関税は事実上の禁輸水準まで上振れました。

その後、2026年2月に米最高裁が大統領令ベースの包括相互関税を違憲と判断します。さらに、2025年11月のジュネーブ協議、2026年3月のパリ協議と段階的な実務協議が積み上げられ、2026年5月12日に米中は時限的な関税引き下げで合意します。

合意後の水準は、米の対中関税が30%、中国の対米関税が10%です。フェンタニル関連の追加関税も20%から10%へ引き下げられました。

5月14日からの北京会談では、この水準の延長と、ボーイング機の購入、米国産牛肉の輸入再開、新規輸入ライセンスの発行、大豆など農産物購入の拡大協議、フェンタニル流入対策の協力などが確認されました。

一方で、半導体・AIチップの輸出ライセンス枠組み、レアアース輸出制限の緩和、台湾問題、AIガバナンスの二国間枠組みは棚上げのままです。

米側が撃ち合いを止めた理由

米国側の事情は、単純な「勝った負けた」ではありません。

第一に、2026年2月の米最高裁の違憲判決が、関税の法的な土台を揺らしました。すべての対中関税が無効化されたわけではありませんが、IEEPAなど大統領令に依拠した包括関税のロジックは使いにくくなりました。

第二に、国内のインフレ圧です。145%の関税は事実上の禁輸であり、消費者物価や企業の調達コストに直接効きます。中間選挙を控え、家計負担としての関税は政治コストが高い局面に入っていました。

第三に、サプライチェーンの現実です。半導体、レアアース、医薬品中間体、太陽光関連など、米国が短期で代替先を作れない品目が依然として存在します。

これらが重なり、撃ち合いの継続より「一時休戦して可視化できる成果を作る」方が、米側の政治計算として合理的になりました。

中国側が撃ち合いを止めた理由

中国側にも、同じくらい強い止める動機がありました。

不動産デフレは長期化しており、家計のバランスシート調整、若年層の失業、消費不振が続いています。2026年の経済成長目標は4.5〜5%と前年から下方修正され、デフレ圧力の解消にも明確な道筋が出ていません。

この状況で対米125%の報復を維持し続けることは、輸出企業の打撃と内需の弱さの両方を加速させます。中国側にとっても、関税戦争の継続コストは政治体制の安定に響く水準でした。

5月の北京会談で、習近平政権が「一時休戦の延長」を受け入れたのは、譲歩というよりは、内政上の優先順位として景気の下支えを取る選択だったと整理できます。

合意の中身は限定的

合意された内容は、目に見える形で整理しやすい項目に偏っています。

  • ボーイング機200機の購入合意
  • 米国産牛肉の輸入制限解除
  • 大豆など農産物購入の拡大協議
  • フェンタニル流入対策での協力
  • 「貿易委員会」「投資委員会」設置の議論

一方で、米中対立の構造に直結するテーマは棚上げです。

  • 半導体・AIチップの輸出ライセンス
  • レアアース輸出制限
  • 台湾問題
  • AIガバナンス

つまり今回の合意は、関税の数字を下げて経済への圧迫を緩めつつ、対立の本丸は次ラウンドに先送りした、というのが実像に近い整理です。

議論が噛み合っていない点

この合意を巡る評価は、立場により割れています。

緩和を歓迎する見方は、関税水準の正常化、企業マインドの改善、サプライチェーン分断の小休止を見ています。

警戒する見方は、半導体・AI・台湾・レアアースが何も解決していない点、トランプ政権が大統領令外の根拠法で個別品目関税を温存している点、合意が時限的である点を見ています。

どちらも事実関係の認識は大きく外れていません。違うのは、可視化しやすい合意項目を重視するか、棚上げされた論点の重さを重視するかです。

投資判断に効きそうな問い

短期と中長期で、見るべき問いが分かれます。

  1. 30%関税は本当に維持できるのか、それとも条件未達で再上振れするのか
  2. 個別品目関税(自動車、鉄鋼、半導体)は、大統領令外の根拠法でどこまで残るのか
  3. 半導体・AI・レアアースが次ラウンドで再点火した場合、企業評価への影響は何経路か
  4. 中国の内需減速と米国のインフレ圧は、それぞれの「次の譲歩余地」をどう変えるか
  5. 台湾を巡る政治イベントが、合意の枠組みを反故にしうるトリガーになり得るか

これらは、今回の30%という数字単独では答えが出ません。

最終整理

対中145%まで吊り上がった関税は、北京会談時点で30%まで戻りました。

しかし、これは関税戦争の終結ではありません。米最高裁の違憲判決、米国内のインフレと政治コスト、中国の不動産デフレと内需不足、という双方の事情がそろった結果としての「一時休戦の延長」です。

論点は、今回の縮小が構造的な手打ちなのか、それとも次のラウンドへの条件付き停戦なのかにあります。

可視化された合意項目(航空機、農産物、フェンタニル)と、棚上げされた論点(半導体・AI・レアアース・台湾)を分けて見ることが、次の動きを読む出発点になります。

参考情報

  • ジェトロ「米国関税措置への対応」
  • ジェトロ「トランプ関税始動から1年、米国の貿易の変化をみる」
  • CISTEC「米中協議の概要(2025年11月〜2026年3月、パリ協議)」
  • 国際通貨研究所「迷走するトランプ関税とアジア主要国の対応」
  • 関連解説「米中首脳会談(2026年5月)――『関税』『台湾』『AI』はどうなった?」(note)
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Toshi Time編集部

新NISA・iDeCo・配当・年金・退職金を、制度と税引後キャッシュフローの観点から整理します。社会保険料や取り崩し順序を含むシミュレーションを発信。※金融商品取引業の登録はなく、個別銘柄の推奨や投資助言は行いません。

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