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SESエンジニアの上流工程希望はなぜ揉めたのか

SESエンジニアの退職理由をきっかけに広がった上流工程論争を、発注側、SES側、契約境界、キャリア形成の観点から1枚で整理します。

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結論

SESエンジニアの「上流工程をやりたい」という退職理由をめぐる議論は、本人の甘えか、現場の冷たさか、という二択にすると不毛です。

発注側は、即戦力として来た人に、まず目の前の工程を確実にこなしてほしいと考えます。

一方でSES側のエンジニアは、下流工程だけに固定されると、スキルが伸びず、市場価値が下がる不安を抱えます。

さらに、この話には契約形態の問題も混ざります。厚生労働省は、労働者派遣か請負かは契約形式ではなく実態で判断されると整理しています。現場がどこまで直接指示できるのか、誰が業務管理や育成を担うのかは、契約の前提によって変わります。

つまり本質は、上流をやらせるべきかではなく、発注側、所属会社、本人の間で、役割、契約境界、育成責任をどう設計するかです。

何が起きたか

SNS上で、SESエンジニアの退職理由として「自分がやりたい仕事ができていない」「上流工程をやりたい」という話が紹介され、議論が広がりました。

賛同側からは、「発注側は教育のために外部要員を入れているわけではない」「まず与えられた工程を確実にやるべき」「営業が期待値を握れていないのでは」といった声が出ています。

一方で、SES側の立場からは、「上流案件に入る機会が少ない」「OJT頼みでは経験が積めない」「下流固定ではキャリアが詰む」という不安も語られています。

この論争は、単なる仕事観の違いではありません。発注、契約、育成、キャリア設計が同時に絡んでいます。

発注側の見方

発注側から見ると、外部要員に期待するのは、まずプロジェクトの穴を埋めることです。

納期、品質、チームの安定がある中で、下流工程を安定してこなせない人に、要件定義や基本設計を任せるのはリスクがあります。

上流工程は、顧客折衝、仕様調整、影響範囲の判断、曖昧な要求の言語化、関係者調整が必要になります。単に「上流をやりたい」という希望だけでは任せにくい、という感覚は自然です。

この立場から見ると、退職理由として「やりたい仕事ができない」と言われても、現場側は「まず任せられるだけの根拠を見せてほしい」と感じます。

SES側の見方

一方で、SES側のエンジニアの不安も無視できません。

上流工程は、実務で機会を得ないと身につきにくい仕事です。いつまでも下流工程だけを担当していると、年齢や単価が上がるほど、次の案件で求められるスキルとのギャップが広がります。

IPAの調査でも、学びの阻害要因として「学習する時間がない」が最も多く、評価や収入につながらないこと、キャリアに必要なスキルがわからないことも上位にあります。これはSESに限った話ではありませんが、現場が変わりやすい働き方では、より強く出やすい問題です。

本人から見ると、「経験がないから任せられない」と言われ続けると、永遠に経験が積めません。だから転職や案件変更を考えるのも自然です。

契約境界の問題

この議論で注意が必要なのは、SESという言葉が法的な契約類型そのものではないことです。

実態としては、準委任、請負、派遣などが混在しがちです。厚生労働省のガイドでは、労働者派遣か請負かは契約形式ではなく、実態に即して判断されるとされています。

派遣であれば、派遣先の指揮命令を受けて働く構造です。一方、請負であれば、注文主と労働者の間に指揮命令関係を生じないことが前提になります。

したがって、「発注側がこの人にこの作業を振る」「育成のためにこの業務をやらせる」といった話は、契約実態によって意味が変わります。

個別案件が適法かどうかは、契約名だけでは判断できません。誰が指揮命令しているのか、誰が業務遂行を管理しているのか、責任範囲がどう分かれているのかを見る必要があります。

議論が噛み合っていない点

この論争では、三者が違うものを見ています。

発注側は、即戦力調達とプロジェクトの安定を見ています。

SESエンジニア本人は、経験機会と将来の市場価値を見ています。

所属会社や営業は、要員継続、単価、本人の希望、次の案件可能性を見ています。

この三者の期待が事前に揃っていないまま現場に入ると、あとから「任せられない」「育たない」「話が違う」という不満になります。

不毛な言い争いを止める問い

この話は、次の問いに分けると建設的になります。

  1. 今の契約形態では、発注側がどこまで直接業務を振れるのか
  2. 上流工程に進むための評価基準は、本人に明示されているか
  3. 所属会社は、上流案件への導線や育成計画を持っているか
  4. 現場は、教育ではなく成果を買っているのか、育成込みで受け入れているのか
  5. 本人は、今の現場で信頼を積む方が早いのか、転職・案件変更の方が早いのか

この問いに分けると、「甘え」「冷たい」「使い捨て」という言い合いから少し離れられます。

最終整理

SESエンジニアが上流工程を希望すること自体は自然です。

発注側が、即戦力として来た人に下流工程の安定遂行を求めることも自然です。

問題は、その二つをつなぐ設計が弱いことです。

誰が育成するのか。どの基準を満たせば上流に進めるのか。契約上、現場はどこまで関与できるのか。

ここを曖昧にしたまま「やりたい仕事ができない」「任せられない」と言い合っても、SESのキャリア不安は解けません。

論点は、上流をやらせるべきかではありません。

発注側、所属会社、本人の間で、役割、契約境界、育成責任をどう設計するか。

ここに戻すのが、今回の議論の着地点です。

参考情報

  • 厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
  • 厚生労働省「37号告示関係疑義応答集」
  • 厚生労働省「労働者派遣事業について」
  • IPA「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2024年度)」
Primary sources

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About the author
Toshi Time編集部

新NISA・iDeCo・配当・年金・退職金を、制度と税引後キャッシュフローの観点から整理します。社会保険料や取り崩し順序を含むシミュレーションを発信。※金融商品取引業の登録はなく、個別銘柄の推奨や投資助言は行いません。

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