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厚木タワマンの修繕積立金国債運用はなぜ揉めたのか

ザ・パークハウス本厚木タワー管理組合の修繕積立金国債運用を、満期保有、途中売却、インフレ、合意形成の観点から1枚で整理します。

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結論

厚木のタワーマンション管理組合が修繕積立金の一部で国債を購入したという報道は、単に「国債は安全か」「インフレ下で国債は弱いか」という話では整理できません。

擁護派は、満期まで持てる資金なら、預金より利回りを確保しつつ株式より価格変動を抑えられると見ています。修繕積立金は住民全員の共有資金なので、元本の安定性を重視するのは自然です。

一方で慎重派は、工事費高騰、修繕時期の前倒し、金利上昇時の債券価格下落を見ています。修繕に使う時期が予定より早まれば、満期まで持てず、途中売却で損失が出る可能性があります。

この議論の本質は、国債を買うべきかではなく、修繕積立金のうち、いつ使う資金を、どこまで満期保有に回してよいのかです。

何が起きたか

日本経済新聞は2026年5月19日、神奈川県厚木市の「ザ・パークハウス本厚木タワー」管理組合が、修繕積立金を元手に3000万円分の10年国債を購入したと報じました。物価上昇による工事費高騰への備えとして、従来の銀行預金中心から一部を運用に回す動きとして紹介されています。

同管理組合の公開ページでも、築4年目に長期修繕計画を見直し、30年間を見据えた資金計画を採用したこと、資産運用の一環として「マンションすまい・る債」を購入していること、証券会社などを招いた勉強会を開いていることが説明されています。

SNSでは、この動きに対して「インフレ下で国債を買うのはどうなのか」という疑問と、「満期まで保有するなら低リスクではないか」という擁護が同時に出ました。

ここで混ざりやすいのは、通常の利付国債と、財務省が2026年12月募集分から販売対象を広げる予定の「個人向け国債プラス」です。今回報道された購入は、管理組合が大手証券会社を通じて10年国債を買った事例として扱うのが自然です。一方、個人向け国債プラスは、2027年1月発行予定分からマンション管理組合なども対象に含まれる制度変更です。

擁護派の見方

擁護派の論点は、修繕積立金の性質にあります。

修繕積立金は、株式のように大きく増やすための資金ではありません。将来の外壁、屋上、給排水、エレベーター、機械式駐車場などの修繕に使うための資金です。大きく減らすことは許されにくく、住民の合意形成も難しくなります。

そのため、選べる運用先はかなり限られます。普通預金や定期預金だけでは利息が薄く、インフレで工事費が上がると、実質的な購買力は目減りします。国債やマンションすまい・る債のような公的性格の強い債券に一部を振り向ける発想は、資金の性質から見れば極端ではありません。

国土交通省の令和5年度マンション総合調査でも、修繕積立金の運用先は普通預金が76.8%、定期預金が35.1%、マンションすまい・る債が19.1%とされ、預金中心の保守的な運用が多数派です。だからこそ、国債購入は「投機」ではなく、預金偏重から少しだけ金利を取りに行く動きとして受け止めることもできます。

慎重派の見方

慎重派の論点は、満期まで持てるとは限らないことです。

通常の利付国債は、満期まで保有すれば額面で償還されます。しかし、途中で売却する場合の価格は市場で決まります。一般に、購入後に金利が上がれば、既存債券の価格は下がりやすくなります。

修繕積立金は、長期計画があっても、支出時期が完全に固定されるわけではありません。国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでも、長期修繕計画は将来の工事内容、時期、費用を確定するものではなく、物価、工事費、金利、運用益などの不確定要素を含むため、見直しが必要だと整理されています。

つまり、10年後まで使わないと見込んでいても、劣化、資材価格、災害、設備故障、工法変更で前倒し支出が起きる可能性があります。そのときに国債を売らざるをえないと、満期保有を前提にした安全性は崩れます。

慎重派が見ているのは、国債そのものの信用リスクというより、修繕資金の流動性リスクです。

議論が噛み合っていない点

この議論では、賛否が違う前提で話しています。

擁護派は「満期まで持てる余裕資金なら、国債は低リスク」と見ています。

慎重派は「修繕時期がズレたら途中売却になり、金利上昇局面では損失が出る」と見ています。

どちらも間違いではありません。違うのは、資金をいつ使う前提にしているかです。

さらに、「インフレ下で国債は意味があるのか」という問いも、分けて考える必要があります。国債の利回りが工事費上昇率を下回れば、実質的には追いつきません。ただし、預金より高い利回りを取れるなら、何もしないより目減りを抑える効果はあります。

つまり争点は、国債がインフレに完全に勝てるかではありません。預金だけに置くより改善するのか、途中換金が必要になるほど資金繰りを固めていないかです。

不毛な言い争いを止める問い

この話は、次の問いに分けると建設的になります。

  1. 今後10年以内に使う可能性が高い資金と、長期で寝かせられる資金を分けているか
  2. 国債を途中売却する場合の損益シミュレーションを住民に示しているか
  3. 大規模修繕、設備更新、災害対応のための流動性資金を別に残しているか
  4. 総会決議や管理規約上、運用商品の範囲、上限、責任分担を明確にしているか
  5. 利回りだけでなく、工事費上昇率、積立金改定、借入余地をセットで見ているか
  6. 個人向け国債プラス、マンションすまい・る債、定期預金、普通預金を同じ物差しで比較しているか

この問いを飛ばして、「国債だから安全」「インフレだから国債はダメ」と言い切ると、議論が荒れます。

最終整理

修繕積立金の運用で大事なのは、利回りの高さではありません。

まず必要なのは、使う時期ごとに資金を分けることです。近く使う資金は流動性を優先し、長期で使わない資金だけを満期保有前提の債券に回す。これができていれば、国債運用は現実的な選択肢になります。

逆に、資金繰りの余裕や途中売却ルールが曖昧なまま利回りだけを見て買うなら、低リスク商品でも問題は起きます。

今回の論点は、「厚木のタワマンが正しいか間違いか」ではありません。

修繕積立金を運用するなら、国債の安全性より先に、使う時期、流動性、総会合意、途中売却時のリスクを決めているか。

ここが、これから増える管理組合の資金運用で問われるポイントです。

参考情報

  • 日本経済新聞「修繕積立金、預金から運用へ インフレ防衛で国債に3000万円投資」
  • ザ・パークハウス本厚木タワー「財務管理」
  • 財務省「個人向け国債の法人等への販売対象拡大について」
  • 財務省「国債金利情報」
  • 国土交通省「令和5年度マンション総合調査」
  • 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント 新旧対照表」
  • 住宅金融支援機構「マンションすまい・る債」
Primary sources

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About the author
Toshi Time編集部

新NISA・iDeCo・配当・年金・退職金を、制度と税引後キャッシュフローの観点から整理します。社会保険料や取り崩し順序を含むシミュレーションを発信。※金融商品取引業の登録はなく、個別銘柄の推奨や投資助言は行いません。

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